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森のひとり言
■vol.1 〜 ■vol.100
森のひとり言・New
■vol.101
原点に帰って、人工林と天然林(1)
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原点に帰って、人工林と天然林(2)
■vol.103
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原点に帰って、人工林と天然林(4)
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原点に帰って、人工林と天然林(5)
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原点に帰って、人工林と天然林(6)
vol.107)
日本の森林は素晴らしい
■vol.108
自然のしくみを楽しもう(1)
※このコーナーは、みなさんのご質問やご意見をもとに執筆されています。どんなことでも、お待ちしています。
こちら からどうぞ。

 その壱百九 : 自然のしくみを楽しもう(2)

 「自然のしくみ」のなかで、最も基本的で、最も重要なのが「植生遷移」です。
この理論は、今から約100年前の1916年(大正5年)にアメリカの植物生態学者のクレメンツが初めて提案したもので「大きな攪乱→陽性植物→陰性植物→極相林」という自然の仕組みです。その後、いろいろな修正が加えられたものの、基本的には現在も通用する、本当に素晴らしい理論で、私は特別大切に思っています。

 極相林の姿は、地域や地形・地質などによって大きく異なります。特に標高による違いは顕著で、次回の「垂直分布と水平分布」で詳しく説明します。簡単にいうと、名古屋市内の極相林はシイ-カシ林、豊田市の面の木峠ではブナ-ミズナラ林になるということです。

 植生遷移の始まりは、森林の消滅です。それも単なる森林の皆伐ではなく、森林土壌の喪失も加わります。これにより埋土種子や萌芽による森林植生の早期回復は無くなります。
 ですから、最初の進出植物は、遠距離を移動できる風散布型種子を持つ植物ということになります。とりわけ、メリケンカルカヤやベニバナボロギクのような、種子を手から離すと空中に浮き上がるほど軽い、一年生の帰化植物たちが最有力です。
 その後は、在来種のススキやヨモギなど多年生草本植物の時代、さらにアカマツ・コバノミツバツツジなど陽地性の樹木たちの時代に変化します。 
 しかし、これらの植物たちは、一年中太陽の光が絶対的に必要なうえ、寿命が100年程度で短いという欠点を持っています。

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 そうして、次の世代は、コナラ・アベマキ・ヤマザクラのような陽樹と呼ばれる高木からなる落葉広葉樹林に変わります。これらの植物の寿命も100〜200年しかなく、稚樹の生育には十分な太陽光が必要です。そのため、今あるコナラ-アベマキ林の林床には、コナラやアベマキの幼木はほとんど見られません。多数見られるのは、アラカシ・ツブラジイ・ソヨゴ・ヒサカキなどの常緑広葉樹ばかりです。
 結局、落葉広葉樹たちの寿命が尽きた後は、常緑広葉樹の森に移り変わることになります。なかでも、ツブラジイとツクバネガシは400年程生きられるうえ、稚樹は耐陰性が強く、一年中日陰の環境でも、何とか生きのびることができます。
 理論的には、このシイ-カシ林が永遠に世代交代をくり返すことになり、これを極相林(クライマックス・フォレスト)と呼びます。海岸近くでは、ツクバネガシに代わってタブノキがその位置を占めます。

 もっとも、この話は800年以上かかるものですから、その間に台風・地震・集中豪雨などの土砂崩れによって、遷移途中で出発点に戻ってしまうことが頻繁に起きることでしょう。
 だからこそ、アカマツもコナラもススキも生き残ることができるのです。
 自然って本当に素晴らしいですね!


(2020.02)






北岡明彦さんを紹介します
 1954年2月、名古屋市熱田区に生まれる。わずかに残る自然の中で「昆虫少年」として育つ。昆虫から植物、野鳥へと得意分野を広げながら、 日本全国を飛び回る。
 名古屋大学農学部林学科卒。愛知県林務課を経て、現在豊田市森林課勤務。日本自然保護協会の自然観察指導員。フィールドでの活動を重視し、 一年中、 公私の観察会で活躍。動植物全般の博識と森林の専門家としての教唆には絶大な信頼がある。 その人柄にもひかれて 「北岡ワールド」に魅せられた人々は多い。
ページを開いた本のイラスト  『中部の山々1,2』(東海財団)『日本どんぐり大図鑑』(偕成社)など執筆、編集。「面の木倶楽部」 「瀬戸自然の会」を主宰。愛知県瀬戸市在住。









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