「矢作川源流の森を歩こう」体験記 
第2回 弁慶杉とアライダシ・ブナ原生林 H21年5月27(水)
晴天の朝。7時50分集合、豊田市のマイクロバスに乗り込む。
今回は岐阜県恵那市上矢作地区まで、およそ1時間半。
恵那山林道の一つ暗井沢林道でバスを降り、まずは大船神社に登る。
登山道には樹齢200年は超えると思われるスギが随所に見える。ここは神域なので皆伐していない手つかずの自然である。周りは植林のため全て伐り倒され、若いスギやヒノキの単層林になっている。そこから動植物が逃げ込んできて豊かな人工林を形成している。
5分ほど登ったところに大船神社が建っている。かつては山岳仏教の一大聖地で30を超える建造物があったそうだ。人家から相当離れた標高800メートルを超える山奥に創建され、1300年ほど経過しているとは思えない。戦火にも遭ったらしいが、守る人々の信仰心の篤さに驚嘆する。
境内の大スギにはヤシャビシャクという着生植物が生えており、「これがあるだけで200年は経過していることがわかる」と講師の北岡さんから説明を受ける。

さらに奥に進むと、今日の目的の一つ「弁慶杉」が見えてきた。
幹周り13.6m、樹高(上部が折れる以前は)40mという巨体は遠目からも大きく思われたが、近づくにつれてその大きさに圧倒される。周りには根を傷めないための配慮で柵が設けられ、幹にはご神木の意味かしめ縄も取り付けられている。「弁慶杉」とは、神社開びゃく者の高弟から名付けられたとか、義経の家来弁慶の手植えから、とも言われている。
確かに後世に残すべき遺産なのだろう。
元の林道に戻り、バスで大船牧場に。
牧場を通るときにキツネが横切っていった。夏毛になっているため黒色だったが、キツネ色になるのは冬だと言うことを初めて知った。
昼食後、いよいよアライダシ(洗出)自然観察教育林に入る。
最初は見慣れたヒノキの人工林であったが、入り口からは全くの自然林となる。単層林と複層林の違いは見た目にもくっきりと分かるほどだ。
まず出迎えてくれたのは清らかに澄んだ池で、モリアオガエルが生息しているそうだ。
この森では、ダケカンバ、ミズナラ、ミズメ、ヒノキ、サワラ、ブナなどが生え、随所に200年を超える巨木が数多く見られる。自然の状態で森が生息しているわけで、太陽の光を受けようと上へ上へと木々が競うように成長している。そのため下草はクマイザサのみがびっしりと生えていた。
その他、今回の行程で学んだこと。
1.カツラの落ち葉は万葉集ではカイズ(香出)と呼ばれているほど匂いがよいこと
2.トチノキの花は生クリームのにおいがすること
3.ウスゲクロモジの小枝を折ってみるとレモンの香りがすること
4.ヤブムラサキの葉は大変柔らかく、肌触りがよい 「まるでビロードのようだ」と北岡さんがほっぺたにこすりつけてうっとりしている顔が幼児のようだった
5.最大の収穫はギンリョウソウ(銀竜草)という実に面妖な植物を知ったことである。
身の丈8cmほどであり、葉緑素を持たない全身真っ白の植物で、花も白いが中心に紫色のメシベとその周りに黄色いオシベが取り囲んでいる。別名ユウレイタケというのも絶妙な名付けである。目の前にあったのは2、3輪であったが、これが薄暗い湿った道一面に生えていれば確かに一瞬ぎょっとするような景観だろうと思われる。自然の中には想像もつかないようなものが生きている、その不思議さに改めて驚嘆した。
好天であったのが、一時的に雷が鳴り雨も降ってきた。大きなトチノキの下に避難したためほとんど雨は落ちてこない。こんなところにも木の力が見て取れる。
「雨を地面に直接流さず一時的に葉に貯め、雫として落とすことによって地面に吸収しやすい効果を生む」という説明に納得する。
また、「古来日本ではブナ帯文化と照葉樹林文化がせめぎ合っていた」と、日本の文化を植物から見ている北岡さんの見識には、たいへん興味深いものがあった。 (INA)
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